HOME 製品情報 inpres RMX カスタムオーダー 試打・フィッティング カタログ 契約プロ

メニュー 閉じる

真実の弾道

― 賞金王・藤田寛之が初めて語る、自らの来た道―

Photographer © Taku Miyamoto

HIROYUKI FUJITA

第 10 回新たなステージ ―― 今、再びマスターズへ

■ 4勝目を挙げ、自身初の賞金王を決めた

2012年シーズンはこれ以上ないほど素晴らしい一年だった。年間4勝を挙げ、初の賞金王に輝き、最優秀選手賞など5冠を達成した。恐らく、今後、国内でこれ以上の成績を得ることは難しいだろう。何より嬉しいのは、シーズン途中に上方修正した「世界ランク50位以内」の目標を達成し、再び、マスターズへの挑戦権を獲得できたことだ。
シーズン初めはいつも通り、目の前の優勝だけを目指していた。しかし、5月末に2勝目を挙げた時、僕にはうっすらとマスターズへの道が見えたような気がした。9月に3勝目を挙げると、周りからは「賞金王」について問われることが増えたが、僕にはただ、オーガスタへの道が少しくっきりしてきたように思えただけだ。それ以外のことは全く考えなかった。賞金王という勲章は、やはり最後に付いてきたものと思う。

この素晴らしいシーズンを振り返り、あらためて考えたことがある。一つは自分自身が成長したということ。そして、もう一つはそんな僕の成長や、技術や、コントロールなど遠く及ばないところで勝敗を左右する<何か>がゴルフにはあり、そういう要素も含めて勝利する人間が真の勝者ということである。

■ ゴルフでは、風や木々と対話することが必要だ

昨年9月、札幌ゴルフ倶楽部で開かれたANAオープン。優勝争いの真っただ中で、僕は17番ホールにやってきた。ここは、ちょうど10年前に僕のセカンドショットが林を越えられず、優勝を逃した場所だ。僕は明らかにリードしている状況なら決して冒険的なショットはしないが、混戦状況の中、様々な事態を想定して、結局、10年前と同じ選択をした。スプーンでの林越えである。打球はこの10年でさらに成長した木々の上を越え、グリーン右の林の木に当たってベアグランドに出てきた。これを寄せてパーをキープし、今回は僕が優勝を勝ち取ることができた。

10年前にはできなかったことを成し得た以上、そこに幾ばくか、自分の成長を感じても許されるだろう。だが、一方で、ボールが林の木に当たってグリーン横のベアグランドまで出てきた幸運に思いを巡らせると、僕はどうしても、優勝と2位とを分ける<何か>、プレーするゴルファーたちの台本には載っていない<何か>について考えずにはいられない。

1997年に初優勝したとき、僕は2位と優勝が全く違うことを身をもって知った。頂点を極めることは称賛に値し、優勝の瞬間から、そのゴルファーを取り巻く環境は一変する。彼が優勝した事実、その足跡はずっと後々まで残る。しかし、2位には何も残らない。
この優勝と2位の間の遠い距離を乗り越えるのが、ゴルファーの実力なり技術だと信じていた。いや、実際に「技術こそがゴルファーをより高みに連れて行く」ことは確かである。ただ、それだけでは説明がつかないことが、勝負の世界では時々、起こる。ずっと完璧な筋書き通りに勝負を進めてきたゴルファーを、幸運としか言いようのない出来事に恵まれたライバルが打ちのめす場面を僕は何度も見てきた。自分自身、こうした番狂わせで2位に甘んじたこともあるし、逆にANAオープンの時のように勝利したこともある。

結局、ゴルフとは、そういう競技なのだろう。よく人生にたとえられるように、筋書きのないドラマに出会うのがゴルフであり、そこに人間のコントロールは及ばない。人はただ、その結果を謙虚に受け入れつつ、次のステージに向けて自分にできる鍛錬を繰り返すしかないのだ。

  • ■ オーガスタのスコアボードに名を刻むことを夢見て
  • ■ マスターズ開幕まで、ひたすらオーガスタを回る藤田

今、僕は米国ジョージア州オーガスタにいる。2月下旬の渡米直前に右わき腹を疲労骨折し多くの人に心配を掛けてしまったが、ようやく回復し、最後の調整を続けている。振り返れば、父の6番アイアンを手にした時から今日までの、遥かな道程に胸が詰まってしまうだろう。だから今は立ち止まらず、ただ自分にできるすべてをやり尽くすだけだ。

マスターズの舞台で、今度はどんなプレーができるだろうか。あの、めちゃくちゃ難しいコースに完膚なきまで叩きのめされるかもしれないし、気まぐれな幸運を味方につけて祝福を受ける場面があるかもしれない。
どんなプレーであっても、それが自分のすべてと受け入れる準備はできている。

僕の新しいステージに向けて ―― 。マスターズに、行ってきます。

2013年4月、米国オーガスタにて、藤田寛之

 

真実の弾道全10回 完

PAGE TOP